東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)57号 判決
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨および本件審決理由の要点が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 原告は、本件審決が本願発明と引用例との比較判断を誤り、ひいて本願発明の特許性の判断を誤つた旨主張するが、理由がない。
まず、引用例に本件審決認定のとおりの技術事項の記載があることは、原告の認めて争わないところである。したがつて、引用例には、まず、モザイクスクリーン法において、モザイクスクリーンと感光板とが別体に構成されたものの記載があることになり、その感光板が乾板かフイルムかは必ずしも明らかではないが、原告は、引用例記載のものはいわゆるフインレー法であつて乾板である旨主張する。そこで、これを乾板としてみても、引用例に、モザイクスクリーン法における感光板としてモザイクスクリーンと感光層とを一体に構成した乾板、カツトフイルム、ロールフイルム等の形式のものの記載があるのであるから、前記のようなモザイクスクリーンと乾板とを別体に構成したものについても、その乾板に代えてロールフイルムを採用しようとすることは、経験則上、当業者の当然に考え及ぶところといわなければならない。この点について、原告は、引用例記載のロールフイルムはモザイクスクリーンと感光層とを一体に構成したものであるから、これらの引用例から直ちに、本願発明のようにパンクロロール生フイルムを用いることに想到することは困難であり、予測性がない旨主張するけれども、前記のモザイクスクリーンと乾板とを別体に構成したものにおける乾板がパンクロのものであることは、原告の認めるところであるから、パンクロ乾板に代えてロールフイルムを採用しようとする場合に、モザイクスクリーンが別個に存在する以上、このロールフイルムもパンクロロール生フイルムでなければならないことは、経験則に照らし当然のことである。
そして、パンクロロール生フイルムを使用すると、連続して複数回の撮影をすることが可能となることは、当然の事理である。
したがつて、引用例記載の技術内容から、本願発明を容易に推考しうるとした本件審決の認定判断は正当というべく、原告主張のような違法はないといわなければならない。
三 以上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は失当であるから、棄却する。
〔編註〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。
本願発明の要旨
写真機の暗箱内にパンクロロール生フイルムをレンズ系の焦点区帯をつぎつぎと続くロールフイルムが通過移動進行するようになし、前記暗箱内の焦点区帯に三原色モザイクスクリーンを設置し、上記モザイクスクリーンを通して上記パンクロロール生フイルム上に連続的に撮影し、該パンクロロール生フイルム上に三色分解画像を連続的に形成せしめることを特徴とする天然色画像用ロールフイルムの製造方法。
本件審決理由の要点
本願発明の要旨は前項記載のとおりである。一方、昭和二五年四月二五日丸善株式会社発行、福島信之助、藤沢信共編にかかる「科学写真便覧(応用篇)」の一、〇三七ページないし一、〇四〇ページ(以下「引用例」という。)に「E・モザイクスクリーン法」という項目があり、そこには、モザイクスクリーンと感光層とを一体に構成した乾板、カツトフイルム、ロールフイルムおよびフイルムパツクに関する詳細な説明が記載されているが、特に一、〇四〇ページ八行ないし二一行には、「モザイク・スクリーン法で、スクリーンと感光板とが別々になつたものがある。この方法では、撮影用スクリーンとネガ感光板とを組合せて撮影してネガを作り、スクリーンから離して現像した黒白ネガから透明ポジを焼付け、再現用スクリーン(Vie wing screen)と組合せて見る。撮影用スクリーンとネガを組合せたものは、三色印画のオリジナルにも利用できる。この方法で現存するものは〓〓〓〓」の記載がある。
そこで、本願発明と引用例記載の技術内容とを比較すると、本願発明はロールフイルムを使用して連続撮影を行なうものであるのに対し、引用例には単にネガ感光板を用いるとのみ記載されていて、その乾板、フイルムの別を明記していない点に一応の差異を認めることができる。しかし、引用例の一、〇三八ページ表―7からもわかるように、モザイクスクリーン感光板としては、乾板、カツトフイルム、ロールフイルムおよびフイルムパツクなどの形式のものは周知であるから、モザイクスクリーンと感光層とを別体とする場合に、その感光板としてとくにロールフイルムを採択し、連続して複数回の撮影を可能ならしめる程度のことは、当業者の容易になしうる程度のことと認められる。また、モザイクスクリーンをフイルム感光面になるべく近い位置(焦点区帯)に設置することも、モザイクスクリーン法の原理上当然のことと認められる。
したがつて、本願発明は引用例記載のものから容易に推考しうる程度のものであつて、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第一条の発明に該当しないから、特許を受けることのできないものである。